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「町おこしにつながってない!?」 急成長したB級グルメの功罪とは?

サイゾー 1月26日(水)17時7分配信
 不況の世相を反映してか、お手軽だけどおいしいB級グルメがブームだ。一方その裏では、急激な認知に伴う弊害も出てきているという。そもそも「町おこし」を謳っていながら、その効果にさえ疑問が出てきている様子……。急速に広がるブームの現状と、今後の課題を追った。

 去る9月18〜19日、神奈川県にて開催された「第5回B-1グランプリin厚木」。B-1グランプリとは、毎年、全国各地の生活に根ざした地元食=B級グルメが一堂に会し、来場者の投票により、その年のナンバーワンを決定する“B級ご当地グルメの祭典”だ。

 06年に青森県八戸市で開催された第1回大会は、地元の郷土料理「八戸せんべい汁」の普及を目指す有志団体「八戸せんべい汁研究所」がプロデュースした参加団体10、来場者約2万人程度のイベントだったが、同年夏、そのほかのB-1グランプリ参加団体などと共にPR団体「B級ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会」、通称「愛Bリーグ」を組織したのを機に大規模化。以来、20団体以上が出展し、常に20万人以上の来場者を集めるまでに成長した。そして、「富士宮やきそば」(静岡県富士宮市)など、各年の優勝メニューがメディアで大々的に取り上げられた影響もあり、今年の厚木大会は出展団体46、来場者は実に43万人以上を誇る一大イベントとなっている。

 B-1グランプリの目的は、各地のご当地B級グルメを全国区に押し上げることで、地域の産業の活性化や観光収入増を図り、その土地の町おこしを進めること。事実、その影響力は大きく、厚木シロコロ・ホルモンは、出展団体「厚木シロコロ・ホルモン探検隊」の調査によると、08年のグランプリ受賞からわずか 3カ月で30億円の経済効果をもたらしたという。また、コンサルタント会社「地域デザイン研究所」は、富士宮やきそばが、その普及に本格的に乗り出した 01年から9年のあいだに439億円の経済効果を上げたと試算。今年の厚木大会は、開催地域に36億円の経済効果をもたらし、グランプリを獲得した「甲府鳥もつ煮」(山梨県甲府市)は、今後1年で約28億円の経済効果を上げると推計されている。


■もう誰も「B級グルメ」とは名乗れない!?


 地方の経済的地盤沈下が叫ばれて久しい今、景気回復の救世主として注目を受けるB-1グランプリとB級グルメ。だが、早くもその利権にまつわるトラブルが見え隠れし、また、B級グルメによる町おこしへの効果についても懐疑的な声が上がり始めている。

 09年11月、富山県高岡市で開催された「高岡B級グルメ博」において、神奈川県大和市の業者が「厚木シロコロ・ホルモン」を無断販売したことを受け、 B-1グランプリに輝いたメニューを開発し、その商標権を持つ「厚木シロコロ・ホルモン探検隊」がB級グルメ博サイドに抗議。高岡市、金沢市、北國新聞、富山新聞らで組織される開催委員会が謝罪する騒動が起きている。

 このほかにも、B級グルメの商標、ブランド名の取り扱いについては、各地で問題が起こっている。

 例えば、毎日新聞は10年10月16日付朝刊で「甲府鳥もつ煮:B-1優勝で便乗組も 是非を巡って論争」との記事を掲載。近隣の便乗店による、にわか仕込みの未熟品に対する基準設置の是非論争を報じている。

 前出「甲府鳥もつ煮」の出展団体「みなさまの縁をとりもつ隊」は、ロゴマークとのぼり旗を商標登録し、賛同店にのみ配布。今後は、品質管理や安易な便乗の防止などの目的から、基準を満たした店舗のみ、甲府鳥もつ煮を名乗れる認定制度を整備し、ブランド力を強化する予定を発表した。というのも、グランプリ受賞後に急遽メニューに加えられた地元店の鳥もつ煮は、味が未熟なものも多かったという。他方、味の基準の厳格化は、新規店舗を締め出すことになり、結局、地域の活性化を阻害するのではと、懸念されている。

 実はこの商標、ブランド使用の問題は、B級グルメの存在そのものに及んでおり、B級グルメの流通関係者は、「そもそも『B-1グランプリ』『B級グルメ』という名前自体、扱いが難しいんですよ」と語っている。

「『B-1グランプリ』という名前は愛Bリーグの登録商標。愛Bリーグ加盟団体ではない店舗や企業が使ってはいけないのは当然ですが、愛Bリーグは『B級グルメのチャンピオン』みたいなキャッチフレーズも類似商標と考えているようです。あとどの地域のものであれ、B級グルメの商品名やメニュー名の扱いは、デリケートな問題ですね。ある通販サイトさんでは、たとえ愛Bリーグに登録されているものと同じ具材や調理法で作った老舗地元店のメニューであっても、その店舗が賛同店でなければ『富士宮名物・焼きそば』というように商品紹介の言い回しを工夫しているようですよ」(B級グルメの流通関係者)

 B-1グランプリに出展されたメニューや愛Bリーグに登録されているメニューの名称の多くは、愛Bリーグ加盟団体が商標登録する以前から地元の人々に当たり前のように呼ばれていたものだという。その名称が全国区になったにもかかわらず、地元店がその名前を扱えないことはおろか、「B級グルメ」という一般名称の使い方にまで注意を払わなければならない現状は、前出・毎日新聞の記事の通り、その地域にとって大きな機会損失になるのではないだろうか。

 なお、最近では、東北のさる地域の有志団体が新たなB級グルメを開発し、PRのため、B級グルメイベントを開催。その際にB-1グランプリに出場経験のある東北各県の団体に呼びかけたところ、他県の人気メニューに惹かれて集まった人々に、新開発したB級グルメ、つまり地元の人間が誰も食べたことのない料理を、"郷土"料理として紹介する事態も起きているという。


■B級グルメブームで盛り上がるのは店舗だけ


 また、郷土料理のブランド化に伴う経済効果にも疑問の声は上がっている。

 国土交通省の外郭団体「民間都市開発推進機構都市研究センター」の久繁哲之介氏は、自著『地域再生の罠──なぜ市民と地方は豊かになれないのか?』(ちくま新書)の中で、「小樽運河」「北一硝子」「寿司屋通り」の3つの名所・名産で町おこしを図った北海道小樽市を例に「『ブランド化』の果実を味わえるのは産業者だけ」と指摘している。

 同書によると、寿司を食べて、運河を散策し、ガラス細工を買うことは小樽の定番観光コースのひとつとなっており、実際、観光客は増加しているが、このコースの所要時間は約2時間。多くの観光客はその2時間を過ごしたら、すぐに小樽をあとにしてしまう。そのため「小樽のブランド化で豊かになったのも、小樽3店セットを構成するごく一部の産業者にすぎない」のだという。

 事実、今年のB-1グランプリを受け、実際に鳥もつ煮を食べに甲府に出向いてみたという某グルメブログ管理人は現地でこんな話を聞いたという。

「駅前から取材先の鳥もつ煮発祥の店まで乗ったタクシーの運転手さんが言うには、B-1グランプリ受賞のおかげで、『みなさまの縁をとりもつ隊』の賛同店まで乗っていくお客さんは増えたんだけど、そのほとんどが食べ終わったら駅前にとんぼ返りするらしいんですよ。実際、甲府の駅前もシャッター通りっぽくなっちゃってるし、ボクもまっすぐ帰って来ちゃいました(苦笑)」

 B級グルメ人気で観光客の獲得には成功したものの、そもそも観光資源がないからこそB級グルメ開発に注力した街だけに、お目当てのものを食べた人々が次に立ち寄る先がない、という皮肉な事態に陥っているわけだ。

 ただし、ブームになる以前から全国各地のB級グルメを追いかけている、あるグルメライターは「確かに経済効果について騒ぎ過ぎな感はあるが、現段階で否定的に語るべきではない」と警鐘を鳴らす。

「B級グルメの普及プロジェクトはたいてい市役所や街の有志の人たちが中心になって、アフター5や休日を返上して進めているもの。そして、B-1グランプリを受賞すると、正式な市の業務に昇格。県も支援するというパターンになることが多いんですよ。B級グルメブーム自体、まだ始まったばかりなので、どのように町おこしに直結しているのか検証しきれていないものの、自治体のお仕事である以上、今後は当然、町おこしや観光事業にも力を入れるはず。これからきちんと成果を上げる可能性は十分にありますよ」(グルメライター)

 また、B-1グランプリ受賞メニューのブランド化について「メニューの開発環境を知っちゃうと、その気持ちはわかります」という。

「B-1グランプリの参加団体は、地元の郷土料理を全国の人に食べてもらうために、味にはトコトンこだわっています。例えば、鳥もつ煮の場合は、市の担当者が、鳥もつ煮発祥の店に何度も頭を下げて、プロジェクトに参加してもらい、最後には板前さんに『店の仲間だ』と言ってもらえるまでの関係を築いたというエピソードもあります。B級グルメに限らず、板前さんって、やっぱり職人気質が強いから、鳥もつ煮発祥の店の人も、当然『自分が作ったものこそが真の鳥もつ煮だ』という自負は持っているはずなんです。それだけに『鳥もつ煮』を名乗る他店にも手を抜いてなんてほしくはないという思いもあって、ブランド化、味の厳格化を主張しているんじゃないですか? それに、そもそも遠くから鳥もつ煮を食べに甲府に来た人がマズいお店に入っちゃったら、町おこしになんてならないわけですし。だから、ブランド化といっても締め付けを厳しくするのではなく、ある程度の基準を決めて、より多くの地域の業者や消費者がB級グルメの楽しみや利益を可能な限り共有できる、適度なユルさや距離感が必要なんでしょうね」(前出のグルメライター)

 その名前が定着し、今年のお歳暮商戦で、各地のお取り寄せメニューが人気を呼んでいる今、B級グルメ市場は新たな局面を迎えようとしている。いかに味を守りつつ、そのブランドを多くの人にフェア、かつ、有効に活用してもらえるか。そして、ご当地グルメを目当てに集まった人々が地域におカネを落とすフローをいかにして作れるか。人気B級グルメ開発に続く一手を見つけることが、次なる大きな課題になっているようだ。

(文/成松 哲)

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